安定感のあるリサイクルトナー
今すぐはしなくてもいいかもしれないけれど、二○年、三○年かけてやらなければいけないようなことをやる必要があります。
それが本当の意味での構造改革だと私は思うのです。
消費だけで発展する経済などありえないわけですから、投資のフロンティアをつくっていく必要があります。
投資需要が出てくるような環境を整える必要があります。
それが規制緩和であり、新しい技術が出てくる環境を国として整えるといったいろいろなことだと思います。
これは短期の景気はどうであれ、二○年、三○年先に向けてやる必要があります。
これを同時にやらないと、消費喚起策だけでうまくいくと思うのは絶対に間違いです。
細かい点になりますが、注意しなければならないのは、これからは構造改革だ、不良債権を処理しなければいけない、財政も早く片づけなければいけないと、何もかもをあまり急いでやろうとすると、人々はますますみんな萎縮してしまうということです。
何が本当の意味での構造改革で、何が我々に夢を与えてくれるものなのか。
そのなかで、何が戦後処理で時間をかけてゆっくりやるべきものなのか。
そこをまずはっきり分けないと、構造改革はいわば自己否定になってしまいます。
逆に言えば、そういう二○年、三○年先の展望が開けて初めて国民一人ひとりが将来に自信を持てて、今の消費を増やしても大丈夫だという気が出てくるはずです。
これはセットでやるべきだと思います。
ただ単に消費をやりなさい、消費は美徳だと言っていたのではだめで、中長期的に見たビジョンをはっきり示して、今はそれに対する策をとる。
それが実現するのは二○年、三○年後であったとしても、その時に確実にそういうことが実現するとか、そういう方向になるということを国民一人ひとりが確信できれば、安心して今の消費を増やすことができます。
逆に言えば、今の消費がなかなか盛り上がらないのは、そういう不安があるからこそ、それを手元に引きつけた形で将来の不安に対して備えているわけで、そういう面があることも忘れてはいけないと思います。
ですから、朝から晩までそれを言われると、二○年後の将来に何かすごくいいことがあるかもしれないという期待より、とりあえず自分はだめだというところが先に出てしまって、事態はもっと悲惨なことになりかねない。
今は、構造改革というと正義の味方になってしまって、何でもかんでも構造改革というレッテルのなかににぶち込んでしまおうとしている。
ゼネコンは潰さなければいけないとか、あれもこれも整理しなければいけないとかということになっていますが、受け皿らしき産業はどこにも影も形もない。
しかも、それらの産業には生身の人間がいるわけで、これを潰すとなると将来はあれも潰すかもしれない、これも清算されるかもしれないと、彼らの心配は無限にふくらんでしまいます。
崖っぶちにぶら下がっているところは日本中にたくさんあるから、人間の心理としてみんなもっと慎重になってしまうでしょう。
そういう意味では、拡大均衡につながる構造改革は何か、戦後処理として時間をかけて対応するのはどこかということをはっきり分けることが大事です。
不良債権の問題も二、三年とよく言われますが、そんなに急いでやるべきものではないし、急いでやったらとんでもないことになりかねない。
これはゆっくりやりましょう、体力に合わせてやりましょう。
財政再建も同じです。
どこかでやらなければなりませんが、体力に合わせてやりましょう、と。
人々を必要以上に脅さないで、その一方で消費の喚起も含めて景気を維持していく必要があります。
もう一つの本当の意味での構造改革の部分、規制緩和や市場開放も、今そこで食べている人にとっては脅威です。
彼らは彼らで一歩も譲らないとあらゆる攻防戦をしていますから、そういうところを少しずつ切り崩していく。
彼らにとっては当然既得権益を失う部分が出てきますから、それでも我々は前に進まなければいけないという時には、セーフティネットで必要以上の犠牲は出さずに前に行くことを考えなければいけないでしょう。
ところが、今のK政権は全部を短期間に集中的にやってしまおうとしています。
全部一緒にやったら、おそらく日本経済はもたなくなります。
何を後にして何を先にやるか。
日本経済が受け入れられるダメージ、それを乗り越えていける部分をはっきり見極めて少しずついかないと、あまり一生懸命全部を同時にやろうとしたら、逆に敵ばかりつくってしまいます。
敵ばかりつくってしまったら、本当にやらなければいけない構造改革もできなくなる。
既得権益を握っている人間がみんな手を結んでしまったら、せっかく構造改革をやろうという今の政権の意気込み、いい意味での構造改革まで一緒にもみ消されてしまうかもしれません。
そういう意味で、「シークエンシング」と英語で言いますが、順序立てるということが大切になってきます。
何を最初にやって次にどれをやるのか。
みんな同時にやったら全部うまくいかなくても、順番にやればうまくいくケースはいくらでもあります。
このシークエンシングという部分に注意すべきではないでしょうか。
Mさんが言われた二○年、三○年後というのは、もう一つの意味で非常に重要だと思います。
構造改革はある意味において一部自己否定ですが、新しい世界に向けて新しい自分をつくらなければいけないというもう一つの面があります。
例えば、K首相が次のような決断をしたとします。
「こんなことをやっていたら日本はもうだめだ。
隣の香港のほうがいつも活気がある。
マイナス成長でも活気がなくならない。
なぜかというと、香港は最高税率が一五%だからだ。
日本も思い切って最高税率を一五%にしてしまえ」そこで最高税率を一五%に変更したとしても、それで明日から日本経済がよくなるかというと、そうはいかないのです。
一五%の税率に直面した人たちは、「これは凄いことになった」とまず感じる。
次に、今までの高い税率の時には飲み屋でうだうだ上司の文句ばかり言っていた人たちが、これなら一旗揚げてみようかという気になる。
今の会社を辞めて、アメリカのビジネススクールに行ってもう一回最新の技術や金融テクニックを勉強して、ニューョークの大手ヘッジファンドに弟子入りして、そこで何年間か腕を磨いて、それから日本に戻ってきて一旗揚げます。
これには少なくとも一○年か一五年はかかります。
そこでやっと花が咲くわけです。
その花が咲くまでの間は、逆にすごい混乱もあるし、かなり厳しい状況もある。
レーガンとサッチャーが米国や英国でこういうことを最初に始めましたが、レーガンは当初こういう政策をマクロ経済政策だと呼びました。
それですごい混乱を引き起こしてずいぶん袋だたきにも遭いましたが、結局あれはマクロ経済政策ではなくて発展経済政策、最近の言葉で言うと構造改革だったのです。
一五年後、クリントンがその恩恵を全部受けたわけで、アメリカ経済はとても元気になりましたが、レーガンとブッシュ(父)の初期までは相当厳しい状況が続いていました。
それは何を意味するかというと、構造改革はMさんが言われたようにかなり時間がかかるものなのです。
今やったところで、その花が咲くのは相当先です。
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